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奇跡!50年越しの続編映画

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某所で「自分で買ったものをけなさない人」と評されたことがあるのだけど、自分の評価ではそうではない。どちらかというと「褒める価値のあるものだけをブログで取り上げる」ようにしているつもり。少なくとも特定の品物をただボロクソけなすだけて優越感に浸ろうとする趣味はない。そんなことしている暇があるのなら良さを感じたものを目いっぱい褒めまくった方がずっと楽しい。ゆえに買ってもブログで取り上げないものなどたくさんある。

その割合が高いのがB級の怪獣・怪物映画だ。特に近年作はあまり観る気がしないし観る買うしてもここでは取り上げない作品ばかり。なにせ怪物映画の醍醐味である「どうやってモンスターを表現するか」という部分がCGアニメ合成に頼るだけ、一色になってしまったからだ。知恵を絞ってさまざまな技法でモンスターを画面に登場させるから何十年後になっても一部マニアがちゃんと覚えて視聴するような伝説的作品になるのであって、どれとってもみんなやり方同じで技術とかけた金が違うだけ、では大手にかなうわけがない。こうして「けっ、またシージーかよ、どいつもこいつも」とマニアを場末の酒場の隅でグチを垂れるだけの存在に追いやった現代の作品群。そういう流れの中では今回とりあげる作品もその域を全く出ていない。それどころかその中でもさらに悪い方で普通なら多分買いもしなかっただろう近年作品が、「巨大ネズミの島」だ。

巨大ネズミの島 [DVD]ジェームス・ベストビデオメーカー

最初にこのタイトルを見たときに思い出した映画が二本ある。一つは1976年映画の「巨大生物の島」(原題はH.G.WELLS'THE FOOD OF GODS。ちなみに一応原作とされるH.G.ウェルズの「神々の糧」と同じ部分は食物によって生物が大型化するという部分だけ)、これも隔離された孤島にものすごい数の巨大ネズミ(本物を使用)が人間を襲うという独自の魅力に満ちた映画だった。そしてもう一本は1959年製作の映画「人喰いネズミの島」これは怪物映像の迫力はないものの、人間を襲って喰うためにもろくなった壁を崩して次々と襲い掛かってきたり、外で孤立した人間に複数の巨大ネズミが一斉に襲い掛かるシーンなどが独自の怖さを醸し出す佳作だった。実は今回の「巨大ネズミの島」はその「人喰いネズミの島の続編として作られているのである。と、言ってもB級にはよくあるタイトルだけ続編やリメイクだったりするんだろうなぁというのが最初の印象。でも買ってみて視聴して驚いた。矛盾はあるものの本当の本当にストーリーがつながっている50年後の話という設定の続編だったのだ。しかも、「人喰い〜」の主人公である小さな船の船長が、同じ役者ジェームズ・ベストによって映じられて再登場しているのだ。これを続編と言わずになんと呼ぼうか。続編が妙に間が空いて作られるという例は稀にある。数十年前と同じ人間という登場人物を当時と同じ人がやるという前例もないではない。が、前者の場合前作の登場人物まで同じ人が出てくるということはまずないし、後者のパターンはその間でも他のパターンで続編が作られ続けていたが久々に第1作の原点に戻すために半分ゲスト扱いで再登場、というのが普通(具体的に言うと1954年「ゴジラ」と1995年「ゴジラVSデズトロイア」に山根恵美子役で河内桃子、1961年「モスラ」と2003年「ゴジラXモスラXメカゴジラ 東京SOS」に中條信一役で小泉博)。ところが「人喰いネズミの島」は別にシリーズ化されたわけでもなんでもないのに2012年、つまり前作から53年もたって「巨大ネズミの島」という同じ登場人物まで登場させてストーリーをつなげた続編が作られたというのがすごいわけだ。多分映画史の中でも類を見ないほど間の空いたシリーズ第二弾ではないだろうか。いったい企画者は何を考えて作る気になったのだろう。素晴らしいことじゃないか、マニアなら誰だって一度は自分だけお気に入りの映画の続編を作ってみたいと思うものだが、それを本当に実現してしまったのだからまさに夢の企画。なんで今頃になった「人喰いネズミの島」を引っ張り出してきたのかは謎だが、同作のラストを某海賊映画がパクった(未確認)とかでちょっと話題になったらしいのがキッカケかも。

ただし、この映画の褒められるところは53年前のB級映画の続編という企画の部分までだけ。中身は低予算で演出はたるてめちゃくちゃ。なにせ目の前で人が巨大ネズミの群れに襲われて食われているのに、誰一人逃げるでもなければ悲鳴も上げず、ただ茫然と眺めているだけ、ってのはありえないだろ。また無駄な描写が多くて話が締まらない。劇中のセリフに

登場人物1「その憤りも分からんでもない 50年も女っ気のないこんな島にいたんだ」
登場人物2「(照れて)そこは問題ない」
登場人物1「問題ないってのは? 相手は?」
登場人物3「(嫌そうに)知りたくないんだけど」

こんな下ネタがある時点で知れたものと言える。さらにひどいのはCGアニメ合成で、正直語りたくないので目を瞑る。ただ瞑ってかつ百歩譲ったとしても動きがネズミじゃなくて犬に似せているってのはないだろう。本作に登場するのは日本語訳ではネズミ扱いでも正しくはトガリネズミなので種類としてはモグラに近く、わたしの知るネズミと同じ動きはしないのかも知れない。でも、あんなに4本の脚でしっかり胴体を高くささえているということはまずないだろう。もっと腹ばいに近い動きをさせるべきじゃないだろうか。
と、言ってもこれにはわけがある。前作の「人喰い〜」では、大型の狼ほどの巨大トガリネズミを表現するのに明らかに犬になにか毛皮のようなものをかぶせて使っているのだ。当時としては仕方ない話だが代わりに凶暴な生物が集団で素早く襲い掛かってくるという迫力は存分に出ている。「巨大〜」の巨大トゲリネズミが犬っぽいのはそういう「人喰い〜」の表現に対するオマージュのつもりだろうが、悪い部分を残して良い部分を全く継承しないってのは最悪じゃないか! と思うわけで。

「巨大〜」を取り寄せたので久々に「人喰いネズミの島」のDVDを引っ張り出して(当然持っているのだ)視聴してみた。ああ、比べるまでもなく明らかにこっちの方が面白いわ。監督は本作の他やはり本物のトカゲをミニチュアの中で歩かせて巨大怪獣だ、表現をやったことで有名な「大蜥蜴の怪」も撮ったことでマニアの間で知られるレイ・ケロッグ。お手伝いとしてB班監督とかなら「クレオパトラ」とか「トラ!トラ!トラ!」とか有名作もやってるしパッケージによれば「地球の静止する日」でもなんかやっていたらしいけど、自分監督作となるとだいぶしょぼくなる。とはいえ大作経験もある人なので結構見せてくれる。「巨大〜」の監督のステーヴ・ラッショウってわたしは全然知らないんだけど。検索してもミュージックビデオのスティーヴ・ラッシュしか出てこないし映画に慣れている人とは思えないなぁ。仮にも続編を名乗らせるには役者ならぬ監督不足だったかも。

人喰いネズミの島 [DVD]ジェームズ・ベスト,イングリッド・ゴウド,ケン・カーティス,ゴードン・マクレンドン有限会社フォワード

単体では見るところのない「巨大ネズミの島」も「人喰いネズミの島」を見てから望むと少し面白くみえなくもないです。

なお、「巨大〜」の字幕を書いた訳者はおそらく「人喰い〜」を見ていない。そのため、先にも書いたように主人公は同じ役者が演じた同一人物という設定なのに「人喰い〜」ではスローンと言う名だったのが「巨大〜」ではソーンと言う名になっている発音としては後者に聞こえるから間違ってないと思うけど、意識してほしかったなぁ。

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