今回の別件、いや、本当の本件。東京へ来た目的の半分が、伊福部昭百年紀コンサートへ行くことだった。いつもなら年末年始に取れる休みが一番近くても1月末にしか取れないと分かったので、「じゃぁあのコンサートに行こうか」と思い立ったもの。かなりギリギリに決まったため、もうお高い席のチケットしか残っていなかった。演劇や歌舞伎のチケットなら高くて見やすい席からなくなっていくものらしいが、この手のクラシックや映画音楽のコンサートとなると安い席からなくなっていくのが相場だそうだ。ただ、音をダイレクトに感じるという点ではやはり良い席であるに越したことは無いだろう。ちなみに場所は1階6列目、チェロが間近にそびえる右側だった。
当日、少し早めに錦糸町に降り立ったわたしはさっそくAndroidのマップソフトをナビに会場"すみだトリフォニーホール"を探す。すぐ道に迷う性質のあるわたしだが、これさえあればさすがに迷わない。もっともナビの必要もないと思うほど駅から近かったが。
どうせ全席指定。急ぐこともないと思って少しブラブラしてから会場に向かったが、開場前にもかかわらず係員が「通路を空けて並んで下さい」と叫び続けるほどには混んでいた。開門と同時に入場し、チケットを切ってもらう。席に着く前にロビーを見ると、伊福部昭氏はゴジラなど特撮に関する展示物でいっぱい。これらを眺めているだけで一時間以上幸せな気分になれそうだったが、演奏開始まで30分しかないので、20分ほど眺めただけであきらめて席へ向かう。わたしの席はなぜか隣の席の人の荷物置き場にさせられていたが、もちろん空けてもらう。
説明によるとこのコンサートは録音し、後日CD化を行う意向であるという。万万が一にも雑音が入らないよう、PHSの電源を切って懐深くしまいこむ。少々の雑音の中、開始直前をしめすため、よくあるブザー代わりに「ゴジラ」第一作の冒頭の、足音や鳴き声が会場内に響き渡る。衣ズレの音すら発するのをはばかれる静寂のなか、演奏者がゆっくりと入場して、演奏が始まる。最初の演目は伊福部氏が初めて映画音楽を手がけた作品、「銀嶺の果て(監督:谷口千吉)」より。今回のコンサートは組曲ではあるが、映画で使われた音楽のオリジナルスコアをそのまま演奏する主旨。古い作品の音楽は音源も古く、収録もモノラルのため今回のようにコンサート目的でもなければ当時同様の演奏方法で演奏されなおし、新しい音源が作られることなどまずない。まして伊福部昭氏の曲でもなければそういった機会が起こることもない。そんな大変貴重な場にわたしはいた。「銀嶺の果て」のメイン曲からすでにのちの特撮映画「空の大怪獣ラドン」で「ラドン追撃せよ」の曲名で知られる音楽のモチーフと思われるものが使われている。初めて聞く音楽ではあったが原点を見た感はあった。続いてはドキュメタリー映画「国鉄」シリーズより。ドキュメンタリーだけに見る機会は全くなく、モチーフは感じても知らない曲だろうと思っていたら、なんと「ゴジラVSメカゴジラ」のメイン曲ほぼそのものであった。これだから特撮映画の音楽を身にしみさせるのはやめられない。
そして今回の目玉であろう「ゴジラ」。いわゆるメインテーマのオリジナルスコアはやはり交響ファンタジー用に編曲したものとは一味違う。弦楽器の限界にまで挑まんとする金切り音が興奮と不安を倍加させる、多分伊福部氏のその後を決定付けただろう名曲である。今回初めて知ったのは、劇中大戸島で演奏される神楽の曲もクラシックオーケストラの楽器で再現されたものであるということ。てっきり雅楽系の楽器を使っているものだと思っていたが、違ったようだ。
ここで20分の休憩。興奮したせいか、耳鳴りが強くなってきた。いくらいいコンサートでもどこかノイズ交じりにしか聞こえない体質になってしまった自分の体がうらめしい。この一年間で覚えるしかなかったマッサージである程度音を抑え、後半に臨む。
後半の2曲はいずれも聴きなれた「海底軍艦」と「地球防衛軍」。来てよかった。わたしは「地球防衛軍」の曲が大好きなのだ。アレグロ調、いや、"マーチ"と呼ぶのがふさわしい高速演奏の、劇中のクライマックスに使われた曲面にさしかかったときには興奮のあまり息が詰まりそうになった。わたしは心臓もあまり自信がないのだ。それでも、この瞬間のためなら耳が壊れようが心臓がどうにかなろうが差し替えにしてもおしくないと思える高揚感が確かにそこにあった。
海底軍艦と地球防衛軍の間にはスペシャルゲストとしておなじみ川北紘一特技監督も壇上にあがり、ちょっと恐縮かつ興奮気味のトーク。ただ、話の中身はもう一人のスペシャルゲスト、西脇博光氏(80年代ごろ、映画から遠ざかっていた伊福部氏の音楽を忘れられないよう、レコードの構成を行ったり、復帰作「ゴジラVSキングギドラ」で音楽を手伝ったりされた方)の方が面白かったけど。
お約束のアンコール曲はその「ゴジラVSキングギドラ」。これだけ劇中曲そのままではなく、別途編曲された組曲ということで劇中未使用の曲も含まれている。ゴジラのテーマをモチーフにした部分はオリジナルスコアと聞き比べるのも面白い。雄大でありながらちょっと詰まった感もあるほどに。
全部で2時間以上もあったが、休憩時間を除いて退屈している暇など全く無い有意義な時間であった。地元にこもっていたら一生縁の無い場であったろう。こういう特別な演目が企画されることなど絶対にないのだから。
その一方で関東は恵まれている。今年は伊福部昭氏生誕100年にしてゴジラ誕生60年ということもあり、特撮映画絡みのコンサートだけでも山ほど企画されている。会場で配布されていたプログラムに挟まっていたチラシだけでも
・3月30日、和光市サンアゼリアで「ゴジラVSキングギドラ」曲などの吹奏楽コンサート、4月4〜6日に「伊福部昭映画祭 映画で楽しむ伊福部音楽」で「銀嶺の果て」「空の大怪獣ラドン」「宇宙大戦争」のうち2本ずつ上映
・2月27日に横浜みなとみらい大ホールで「伊福部昭 生誕100念メモリアル・コンサート」演目は「ゴジラ」「大魔神」「銀嶺の果て」「ビルマの竪琴」
の二つ。他にも
・5月31日(伊福部昭氏誕生日)、ミューザ川崎シンフォニーホールで伊福部昭 生誕100年記念コンサート。SF交響ファンタジー第三番他。同日に生まれ故郷の北海道は札幌でもコンサートがあるけど、こちらは映画音楽ではなさそう
・5月4日に日比谷公会堂で「伊福部昭百年紀コンサートVol.2 SF交響ファンタジーの夕べ」開催予定
と目白押し。都合さえつけば地方在住者の何倍も簡単にいける関東在住者がうらやましくてうらめしいくらい。もっとも、今回来られるタイミングを得ただけでもわたしはかなり恵まれた方だろう。興味のある人は、一度でいいから「生で立ち会う」感触と感激を味わって欲しい。きっと別の空間に引き込まれる。
当日、少し早めに錦糸町に降り立ったわたしはさっそくAndroidのマップソフトをナビに会場"すみだトリフォニーホール"を探す。すぐ道に迷う性質のあるわたしだが、これさえあればさすがに迷わない。もっともナビの必要もないと思うほど駅から近かったが。
どうせ全席指定。急ぐこともないと思って少しブラブラしてから会場に向かったが、開場前にもかかわらず係員が「通路を空けて並んで下さい」と叫び続けるほどには混んでいた。開門と同時に入場し、チケットを切ってもらう。席に着く前にロビーを見ると、伊福部昭氏はゴジラなど特撮に関する展示物でいっぱい。これらを眺めているだけで一時間以上幸せな気分になれそうだったが、演奏開始まで30分しかないので、20分ほど眺めただけであきらめて席へ向かう。わたしの席はなぜか隣の席の人の荷物置き場にさせられていたが、もちろん空けてもらう。
説明によるとこのコンサートは録音し、後日CD化を行う意向であるという。万万が一にも雑音が入らないよう、PHSの電源を切って懐深くしまいこむ。少々の雑音の中、開始直前をしめすため、よくあるブザー代わりに「ゴジラ」第一作の冒頭の、足音や鳴き声が会場内に響き渡る。衣ズレの音すら発するのをはばかれる静寂のなか、演奏者がゆっくりと入場して、演奏が始まる。最初の演目は伊福部氏が初めて映画音楽を手がけた作品、「銀嶺の果て(監督:谷口千吉)」より。今回のコンサートは組曲ではあるが、映画で使われた音楽のオリジナルスコアをそのまま演奏する主旨。古い作品の音楽は音源も古く、収録もモノラルのため今回のようにコンサート目的でもなければ当時同様の演奏方法で演奏されなおし、新しい音源が作られることなどまずない。まして伊福部昭氏の曲でもなければそういった機会が起こることもない。そんな大変貴重な場にわたしはいた。「銀嶺の果て」のメイン曲からすでにのちの特撮映画「空の大怪獣ラドン」で「ラドン追撃せよ」の曲名で知られる音楽のモチーフと思われるものが使われている。初めて聞く音楽ではあったが原点を見た感はあった。続いてはドキュメタリー映画「国鉄」シリーズより。ドキュメンタリーだけに見る機会は全くなく、モチーフは感じても知らない曲だろうと思っていたら、なんと「ゴジラVSメカゴジラ」のメイン曲ほぼそのものであった。これだから特撮映画の音楽を身にしみさせるのはやめられない。
そして今回の目玉であろう「ゴジラ」。いわゆるメインテーマのオリジナルスコアはやはり交響ファンタジー用に編曲したものとは一味違う。弦楽器の限界にまで挑まんとする金切り音が興奮と不安を倍加させる、多分伊福部氏のその後を決定付けただろう名曲である。今回初めて知ったのは、劇中大戸島で演奏される神楽の曲もクラシックオーケストラの楽器で再現されたものであるということ。てっきり雅楽系の楽器を使っているものだと思っていたが、違ったようだ。
ここで20分の休憩。興奮したせいか、耳鳴りが強くなってきた。いくらいいコンサートでもどこかノイズ交じりにしか聞こえない体質になってしまった自分の体がうらめしい。この一年間で覚えるしかなかったマッサージである程度音を抑え、後半に臨む。
後半の2曲はいずれも聴きなれた「海底軍艦」と「地球防衛軍」。来てよかった。わたしは「地球防衛軍」の曲が大好きなのだ。アレグロ調、いや、"マーチ"と呼ぶのがふさわしい高速演奏の、劇中のクライマックスに使われた曲面にさしかかったときには興奮のあまり息が詰まりそうになった。わたしは心臓もあまり自信がないのだ。それでも、この瞬間のためなら耳が壊れようが心臓がどうにかなろうが差し替えにしてもおしくないと思える高揚感が確かにそこにあった。
海底軍艦と地球防衛軍の間にはスペシャルゲストとしておなじみ川北紘一特技監督も壇上にあがり、ちょっと恐縮かつ興奮気味のトーク。ただ、話の中身はもう一人のスペシャルゲスト、西脇博光氏(80年代ごろ、映画から遠ざかっていた伊福部氏の音楽を忘れられないよう、レコードの構成を行ったり、復帰作「ゴジラVSキングギドラ」で音楽を手伝ったりされた方)の方が面白かったけど。
お約束のアンコール曲はその「ゴジラVSキングギドラ」。これだけ劇中曲そのままではなく、別途編曲された組曲ということで劇中未使用の曲も含まれている。ゴジラのテーマをモチーフにした部分はオリジナルスコアと聞き比べるのも面白い。雄大でありながらちょっと詰まった感もあるほどに。
全部で2時間以上もあったが、休憩時間を除いて退屈している暇など全く無い有意義な時間であった。地元にこもっていたら一生縁の無い場であったろう。こういう特別な演目が企画されることなど絶対にないのだから。
その一方で関東は恵まれている。今年は伊福部昭氏生誕100年にしてゴジラ誕生60年ということもあり、特撮映画絡みのコンサートだけでも山ほど企画されている。会場で配布されていたプログラムに挟まっていたチラシだけでも
・3月30日、和光市サンアゼリアで「ゴジラVSキングギドラ」曲などの吹奏楽コンサート、4月4〜6日に「伊福部昭映画祭 映画で楽しむ伊福部音楽」で「銀嶺の果て」「空の大怪獣ラドン」「宇宙大戦争」のうち2本ずつ上映
・2月27日に横浜みなとみらい大ホールで「伊福部昭 生誕100念メモリアル・コンサート」演目は「ゴジラ」「大魔神」「銀嶺の果て」「ビルマの竪琴」
の二つ。他にも
・5月31日(伊福部昭氏誕生日)、ミューザ川崎シンフォニーホールで伊福部昭 生誕100年記念コンサート。SF交響ファンタジー第三番他。同日に生まれ故郷の北海道は札幌でもコンサートがあるけど、こちらは映画音楽ではなさそう
・5月4日に日比谷公会堂で「伊福部昭百年紀コンサートVol.2 SF交響ファンタジーの夕べ」開催予定
と目白押し。都合さえつけば地方在住者の何倍も簡単にいける関東在住者がうらやましくてうらめしいくらい。もっとも、今回来られるタイミングを得ただけでもわたしはかなり恵まれた方だろう。興味のある人は、一度でいいから「生で立ち会う」感触と感激を味わって欲しい。きっと別の空間に引き込まれる。