Quantcast
Channel: 録画人間の末路 -
Viewing all articles
Browse latest Browse all 1580

最高の人形アニメ映画、"くるみ割り人形"

$
0
0
そういえば今までぜんぜん気がつかなかったんですが、「孔雀王」ってDVDにもなってなかったんですね。もちろんビデオアニメの方じゃなくて、実写映画の方です。原作マンガがメジャーなのでかえって気にしてませんでした。香港との合作映画なので、今となるとそこらへんの版権とかが面倒な問題にでもなっているのでしょうか。もちろん日本の版元がその気になれば、少なくともVHSソフトは存在していた映画ですからDVDの販売も難しい話ではないと思いますが。昔レンタルビデオで見たことがあるくらいで熱心なファンと言うわけではありませんが、話が出るともう一度見たくなるのが不思議です。


程度のネタは序の口、まだ放送2回ですが非常に濃い話が続いている、日本映画専門チャンネルで放送中の「特撮国宝」。映画監督にして特技監督にして特撮ヲタである樋口真嗣氏が企画監修はもちろんナビゲーターまで担当した特集で、毎回特定のベテランの特撮関連の人物を招いて話を聞くインタビューとその人物がかかわった特撮作品(映画テレビ両方)の二部構成で放送されています。第一回は造形の鯨井実氏で、インタビューパートで明らかにレイ・ハリーハウゼンが「恐竜100万年」で行ったダイナメーションを意識して作られた自主制作の人形アニメ映画が珍しい上にすばらしく、ダイジェストのみだったのが残念なほど。ただ、映画パートは鯨井氏はオープニングの一部くらいしかかかわっていない「恐竜探検隊ボーンフリー」だったのは残念。これはまもなくDVDが発売されることに合わせたためと思われます。

映画パートが少し残念だった第一回に対し、先日放送された第二回の真賀里文子氏の映画パートはすごかった・・・。日本はもちろん世界でも珍しい、内容のほとんどが人形アニメののみで構成されている長編映画、「くるみ割り人形」が放送されたからです。もちろんまもなく発売されるBD/DVDの宣伝もかねたものではありますが、それだけにBD用にリマスターされた高画質な映像を見ることができたのは幸いでした。たまたま姉が我が家へ尋ねてきたこともあって外は記録的な大雨、録画が失敗しないかと心配したのですが、幸い前編無事に録画できていました。
本編役94分という普通の映画並みの長さのほとんどをコマ撮りで撮影する、当然ながら途方もない時間がかかったものでしょう。しかも、人形アニメーターは基本ひとつの作品を一人で手がけます。もちろん造形や照明などのアシスタントはいますが、人形を動かすアニメイトそのものは一人でやるのです。そうでないとカットごとに統一感のないものになりがちなのだそうで、かのレイ・ハリーハウゼンも結果最後の作品となった「タイタンの戦い」を除いてアニメイトは自分ひとりで手がけたとか。「くるみ割り人形」は真賀里文子氏のほかにも中村武夫氏のクレジットがあるため、分担しているかと思いきやご本人いわく「8割以上はわたし一人でやった」そうです。結果、サンリオの発表によると5年もの歳月がかかったとか、また、本編中にわずかに存在する人形アニメではないパートは原作とも言うべきバレエ「くるみ割り人形」の一部分を人が踊るシーンです。が、そのダンサーがなんと森下洋子と清水哲太郎。これ以上はない最高のペアが短い時間とはいえ実際に踊っていり映像が使われています。特別出演扱いですが、どんなに時間とお金をかけても最高の映画を・・・という意気込みが伝わってくる人選です。

多分こううキッカケでもなければ永久に見る機会がなかっただろう「くるみ割り人形」。なにせ全編アニメイトですから特撮というよりアニメーションと呼ぶほうがふさわしい映画。それだけに見られて本当に良かったと思っています。クライマックスのフランツ王子率いるおもちゃの兵隊軍団とネズミの軍団の入り乱れての戦いはあまりにもすさまじく、とても人形アニメで合成なしに撮影したことが信じられません。どうみてもあわせて20体はいるだろうキャラクターたちがひとつの画面の中でちゃんと個性を出しながら動き続けているのですから。以前虫の死骸に針金を指して使った元祖アニメーター、スタレーヴィッチの「カメラマンの復讐」で一画面に十匹以上の虫がアニメイトされるさまに驚愕させられたことはありますが、本作はそれをはるかに超えます。
特撮ヲタから見ての驚愕は、その火薬の使い方。戦闘シーンで兵隊たちがネズミに大砲や鉄砲を打ち込むシーンがありますが、ちゃんと火薬を使って爆発を割り込ませているのです。当然火薬の爆発はアニメイトできませんのでその箇所だけ普通に撮影した映像を使っているので人形たちは動きが止まってしまうのですが、その割込みを爆発の一瞬だけに抑えてアニメイトできない時間を最小限に抑えたり人形を操演で直接動かす、あるいは直後のアニメイトの手前に煙を移しこむ(おそらく一度完成させたフィルムを映写機に掛けると同時に手前に煙を流したものをもう一度カメラで撮影する"スクリーンプロセス"技術の応用)など、編集の技術で気をつけなければ分からないほどアニメイトと実写をうまくつなげているのです。合成なしで人形アニメと爆発の並存は不可能だと思っていたので、目からうろこ。こんな巧みなやり方、海外の作品でも見たことありません。また、実景と合成しないので固定画面にしないと人との合成が難しいストップモーションアニメの欠点を気にする必要がないため、カメラの視点もガンガン動き回ります。海外のストップモーションアニメを見慣れたわたしの目には非常に新鮮でファンタジックに映りました。

日本の人形アニメというと、それ一筋で腕を磨いた海外のアニメーターに比べると劣る印象しか持っていませんでした。それは「魔人ハンター ミツルギ」というヒーロー特撮ものが意識してみた最初だったからです。同作は変身巨大化してミツルギが登場したシーンだけ人形アニメになるんですが、わたしが見てもフォロー入れられないほどアニメイトの動きも悪く、手抜きなのか明らかに人形の足を持って回転させて攻撃だ、みたいなシーンもあったりしてあまりにチャチだったのです。実はミツルギもくるみ割り人形と同じ真賀里文子氏がアニメイトした作品なのですが、ミツルギがひどかったのは時間が全くなかったせいだったのです。今回のインタビューでも「わたしの中で10年以上封印していました、日数的につらすぎた」「テレビのテって聞いただけで少し吐き気がするほどきつかったんです」「視聴率が悪くて1クールで終わって万々歳みたいな、助かった」と語っています。
真賀里文子氏の作品の中で、多分一番見た覚えがあるだろうものといえばコンタック咳止めのCM。縦長の薬のカプセルキャラクター・上が透明でつぶつぶが入っていて下がオレンジ色で顔と手足がついているとぼけたキャラクターのCMを見た覚えのある人は少なくないと思います。最近はCMに人形アニメが採用されることもなくなってCGばかりなのをちょっと嘆いていました。現在技術を伝えるための「小さな学校」を経営し、後継者を育てているそうですが、それを発揮する場が全くないのが悩みだそうで。いま、テレビで見かける人形アニメといえば、せいぜい日本放送協会の衛星放送宣伝キャラクター、どーもくんくらいなものでしょう。「パンダの次がメダカで、メダカの次が立体アニメだと思っているの、絶・滅・危・惧・種」と冗談交じりにおっしゃられてましたが、本心でしょうね。ただ、真賀里文子氏の「くるみ割り人形」はすごすぎて、これ見た後に「自分もやってみたい」なんて口が裂けてもいえるレベルじゃないんですよ。そもそもミニチュア特撮とセルアニメが育ててきた日本のサブカル映像において、人形アニメはどうあっても傍流です。にもかかわらず、この国には最高の映画とそれを撮った人がいる。後継者が少ないのは、仕方の無い話なのかも知れません。

くるみ割り人形 [Blu-ray]杉田かおる,志垣太郎,西村晃,夏川静枝サンリオ

Viewing all articles
Browse latest Browse all 1580

Trending Articles