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巨大昆虫映画のリアルさ

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映画の存在はもちろん写真によってそのかっこよさ、さらには監督が「地球へ2000万マイル」のネイサン・ジュラン、造形が「大アマゾンの半漁人」のバド・ウエストモアということもあってマニアの間では知られていたアメリカ製怪獣映画、「THE DEADLY MANTIS」(1957)。日本では上映もビデオ化もなされず、「一度は見てみたい」という願望だけにさらされてきたこの映画がついに日本でも「極地からの怪物 大カマキリの脅威」のタイトルでDVD化され、発売されました。バンザーイ。ちょっと心配していた画質は問題のあるレベルではなく、一安心。十分巨大カマキリが楽しめます。
少々ジラされた上でついに登場する大カマキリの姿は、予想通りのできばえ。口が左右あごではなく下あごだったりする辺りが画竜点睛を欠くものではありますが、一瞬本物をそのままおいただけはないか、と思うほどの完成度の高さは視聴前の期待を裏切らぬものでした。ただ、ビルを登るワンカットだけはおそらく本物のカマキリを使ったものと思われます。仰角に撮られたアップや、やや引目の視界で周囲の建造物や、正確に計られているだろうミニチュアを比較物としてキチンと入れるようにしたカットの数々はまるで日本の怪獣映画。洋画のイメージを覆す迫力が存分に味わえます。
カマキリを追いかける軍隊描写はリアルテイスト。大カマキリの飛行速度も航続距離能力も大変高いためになかなか捕らえられず、米軍は苦戦を強いられますが、それだけに緊迫感はなかなかのもの。気に入ったのは大カマキリ対戦闘機の空中戦においてミサイルを当てられず、逆にカマキリのカマの前に打ち落とされた直後。なんとパイロットがパラシュートで脱出しているのです。怪獣映画生産国の代表格である我が国日本でも、実はこの描写は珍しいのです。「ゴジラの逆襲」(1955)でも「空の大怪獣ラドン」(1956)でも怪獣との戦いで戦闘機が何機も墜落させられていますが、脱出描写はありません。もちろん「逆襲」では小さな島の山間という狭い地帯での低空飛行中・「空の大怪獣」では超音速同士の至近距離での戦いという、脱出など間に合うとは思えない条件でのことなので描かれない=リアルでないという意味ではありません。が、怪獣もので軍人の安全確保を描いた描写は珍しいのではないでしょうか。日本でも映画ではその後もあまり描かれることはなく、テレビ特撮の「ウルトラマンA」(1972)あたりからのウルトラシリーズではよくやっていましたがそのくらいで、久々に見ただけに新鮮な気分にさせられました。その代わりに都市破壊などが控えめで破壊の美学には欠けますし、トンネル内という逃げ場のない最終決戦場に、誘導するでもなくいつの間にか入り込んでいたという展開は残念の一言ですが。

さて、一方我が国の巨大カマキリ映画・・・というのは無いんですが、巨大カマキリが登場する作品ならなんと言っても映画「怪獣島の決戦 ゴジラの息子」(1967)、それに登場するカマキラスが代表格でしょう。

怪獣島の決戦 ゴジラの息子 [DVD]佐原健二,黒部進,平田昭彦,高島忠夫,前田美波里東宝
造詣は内容を踏まえたために口が少々とがっている上に目が大きく、リアルな造形という部分では大カマキリに大分劣ります。が、ほとんど動かない大カマキリに対してカマキラスのよく動くこと。日本の怪獣はぬいぐるみに演技者が入る物が多いので人間の形や動きがある程度出るため、動きや形状に制限が出てしまいます。アメリカでよく使われたストップモーション・アニメはどんな動きも可能ですが、動きがぎこちなくて別物にしか見えず、破壊シーンも合成に頼らざるを得ないため一体感が出にくくなるなどこちらも欠点は少なくありません。糸で釣り上げ、それを持って怪獣をあやつる操演技術はその中間に存在し、糸さえ見えなければ人の形に動きを制限されることなく、一体感を崩さない破壊シーンもできるなどいいところどりも可能です。が、代わりに操演陣に極めて高い特殊技能が要求されます。「ゴジラの息子」のカマキラスはその条件を見事クリアして生き生きとした動きを、しかも手元足下の細かいところまで表現しつつ三匹同時に画面に登場させ、かつゴジラと戦わせるという離れ業をやってのけています。この作品の特技監督は有川貞昌氏でおなじみ円谷英二特技監督作品と比べると予算に無理が言えない事情もあってか合成を控え、代わりに技術でカバーする作品作りが目立ちます(唯一の大作「怪獣総進撃」は除く)。「日本誕生」の八岐大蛇と須佐之男の戦い、「モスラ対ゴジラ」での操演怪獣モスラとゴジラの対決、「三大怪獣地球最大の決戦」でのキングギドラ・ラドン・モスラに加えゴジラまで同じ画面に登場するバトルなど、過去の経験の積み重ねによる卓越した技術が「ゴジラの息子」で見事集約されています。しかもこのカマキラスですら映画の中では前座に過ぎず、本命は八本の足を駆使して動き回るクモンガなのですから。さすがに大変すぎたのか、さしもの東宝特撮陣もこれ以降はここまで操演技術を駆使した怪獣をメインにする映画を作ることはありませんでした。わたしが見た中でも匹敵するのは「ゴジラVSビオランテ」の若狭決戦でビオランテが触手をくねらせながら突撃するシーンくらいです。
あまり動かず、画面に映るのは上半身ばかりの「大カマキリの脅威」の大カマキリ。全身が映るカットが多数あり、クネクネとよく動く「ゴジラの息子」のカマキラス。じゃぁどっちがよく出来ていると感じられるかと言うと、それでも前者なんですわ。虫ってあまり動かないものだとわたしは思っているんです。ここぞという時は本当に素早い動きをしますが、それ以外はじーっとしていて獲物を待つ待ち伏せハンター・カマキリは特にその傾向が強いですね。ゆえに、クネクネよく動くのは内骨格生物の描写にはいいんですが、外骨格生物描写にはやや過剰表現に見えてしまうのです。最近はVFX技術のおかげで巨大昆虫が映画に出てきたとしても、カマキラス以上にクネクネウジャウジャと動き回るものが主流となっています。だからこそ、動かないゆえのリアルさ、迫力が味わえる「大カマキリの脅威」に古い新鮮さを感じてしまい、満足感いっぱいの今日この頃であります。

極地からの怪物 大カマキリの脅威 [DVD]クレイグ・スティーブンス,アリックス・タルトン,ウィリアム・ホッパーランコーポレーション

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