「バスケットケース」という映画はホラー映画としてカルト人気を持つ作品です。BDのパッケージにおいてマンガ「ジョジョ」シリーズで有名な荒木飛呂彦氏も「傑作ホラー映画」とコメントを載せるほどで、決して特撮や特殊メイクが優れた作品ではなく、むしろ低予算でチープですがその低予算、特に撮影に16ミリフィルムを使ったために画質が荒く、それがかえって作りのアラを目立たせずにリアリティーを生む結果となっています。
主人公のベネガルとドウエインは結合双生児。母親は彼らを生むと同時に死亡。幼いころは父親によって隔離されて生活していましたが、やがて父親は二人を手術で切り離させることを決意するのですが、生かすのは弟のドゥエインだけ。なぜならベリアルは人間の姿をとどめておらず、肉の塊の真ん中に顔があり、両側から腕が映えた状態で弟の脇腹にくっついている、という醜い姿だったからです。嫌がる二人を強引に麻酔にかけ、金さえもらば非合法な手術でもやる医師たちによる切り離し手術。ドウエインは傷跡は残ったものの術後の手当てが行われましたが、ベリアルはなんと生きたままゴミ捨て場に捨てられていたのでした。双子の間にあったテレパシーで弟に助けられたベリアルは、復讐のためまず父親を殺害すると、弟の持つバスケットケースに身を隠し、手術をした医師を一人一人探し、殺害していくのでした。
バスケットケースというとサンドイッチでも入れてピクニックに持っていくやつを連想しますが、ベリアルはもっと大きいのでドウェインも抱えて歩くような、行李に近い箱です。猛獣のような勢いでそこから飛び出してくるベリアルは迫力があり、そのあとの血まみれ残酷描写を引き立たせます。ベリアルというキャラクターはよく言えば手塚治虫氏のマンガ「ブラックジャック」のピノコみたいな存在です。ピノコはブラックジャックによって体を与えられ、救われましたが、ベリアルは誰も救いの手を伸べませんでした。日本人が見て特に哀れみと哀しみを感じるのはそうした面もあるかと思います。作品が作られた1982年ころはこうした結合双生児や奇形をさらすような作品はそろそろ憚れる空気があったかと思いますが、「バスケットケース」でそれができたのはおそらく1980年に公開されてヒットした映画「エレファントマン」の余韻のおかげで奇形を哀しみととらえる空気が存在したためだと思います。便乗映画と言われれば、そうだ、と答えるしかありませんが、おそらくいくつも作られた似たような映画の中で名を残したのはそれだけ優れていた部分があった、ということでしょう。
バスケットケース [Blu-ray]ケヴィン・ヴァン・ヘンテンリック,テリー・スーザン・スミスキングレコード
ソフトの映像は公開時とは異なる4対3の画角になっています。これは先も書きましたように16ミリのフィルムを使い、かつ上映の際に上下をトリミングして1対1.85の画角にしたために、現在そのままHDリマスターにしてもあまりに画質が悪くなって視聴に耐えなくなるとのこと。それを少しでもマシにするためにオリジナルの4対3に戻したとのことです。それでも高画質とは言えませんが、そこが味ですから仕方ないところです。そのくらいの画質なら別にBDでなくDVDでも十分だと思うところ。実際わたしは今でも平気でDVDを買いますし、今回のバスケットケースソフト化も迷ったのですが結局BDにしました。それはバスケットケースには2と3が存在し、かつその2本に関しては今回DVDが発売されずBDのみのため、それと合わせるためです。棚に並べたときにシリーズでデザインが違うのは美しくないもので。
この時点で一部のマニアの心に残り続けた「バスケットケース」。なぜかその余韻が潰される日が訪れてしまいました。「バスケットケース2」が作られ、公開されたからです。「バスケットケース2」は前作公開から8年もたった1990年に製作された映画です。一応第一作は当たってそのあとの企画をいろいろ立て続けた同作の監督、フランク・ヘネンロッター監督ですが、どうもイロモノ路線に走ったらしく、悉くボツを喰らい続けたようです。まぁイロモノではあってもヒューマンドラマの面が評価された「バスケットケース」の監督が「ミュータントゴキブリ」とかの企画を持ってきたら怒るよなぁ。それでも「ブレインダメージ」を作り、さらに「フランケンフッカー」の企画が受け付けてもらえます。ただし、条件として「バスケットケース2も作ること」が突き付けられたとのことです。ヘネンロッター監督は続編を作ることはためらったようですが、その代わりに自分の作りたい映画も作ることができるなら、とバスケットケース2を作りましたが。
・・・なんか、いろいろと壊れてました。
まず、前作で死んだはずの双生児が生きていました。キングコング2かよ! と盛大にツッコミを入れましたが、考えてみたら前作のラストシーン、ホテルから落ちて血まみれになって倒れた二人の周りを野次馬が取り囲む病者はキングコングに似ているといえば似ている。まぁそれはよしとしましょう。二人は病院に運ばれますが、ベリアルの外見からは別に見た感じケガ等の様子はありません。むしろ暴れることを警戒してか、鎖か何かでつながれているくらいです。パッと見すると左手の位置と向きが前作と少し異なり、顔がちょっとカッコよくなり、色が茶色くなってます。どう見ても別人・・・いやいやきっと落ちたショックで骨の位置に変化があったんでしょう。むしろカットごとに大きく印象の異なる前作(まぁ複数のパペットを使い、かつデザインの統一が取れていなかったせいなのですが)より統一性という点では優れていますし。一方弟のドウェインはベリアルとの喧嘩の記事もあってか全身包帯男。それが後に取れると・・・。月日の流れは残酷なもので、前作の同じ役者のケヴィン・ヴァン・ヘンデリックが演じているのですが、数年の間にすっかり恰幅がよくなってしまっていました。さらに今回は35mmの映画用フィルムで撮影された高画質のHDマスターのため、あごに残る青々としたヒゲの剃り跡が丸わかりになってしまっています。前作では隠されて幼少期を不健康に過ごしたイメージにふさわしい線の細いあどけない少年顔だったのに・・・。まぁそこは目をつぶりましょう。
前作で起こした二人の事件はマスコミによって報道され、悪い意味でも一躍時の人となっていました。異形の外見で連続殺人事件を起こしていましたからね。ドウェインはベリアルを連れて病院を逃げ出しますが、そこに「ドクター・フリークス」の異名をとる女、ルースが現れます。ベリアルのような奇形児を引き取って同居している彼女に誘われるままその家に行ってみるとそこには奇形のものたちが・・・というよりフリークスが大勢住んでいたのでした。「奇形」も「フリークス」も意味は同じですが、このころのフリークスとはそれ以前の見世物小屋芸人のようなリアルなものとは違う、進歩した特殊メイク技術を使って悪乗りした造形のキャラクターを大暴れさせるような映像が、映画やミュージックビデオの賑やかし要因としてもてはやされていた時期なのです。「スター・ウォーズ」シリーズにある、雑多な宇宙人たちが集う酒場のシーンを連想してもらえればイメージは近いかと思います。本作に出てくるフリークスもネズミやカエルの顔を模したもの、歯がハーモニカ状のものなどベリアルのような奇形とは一線を画すリアリティのないものたちばかり。演出は淡々としていた前作とは打って変わって大きな演技になってしまっています。ストーリーも有名になったベリアルを利用して金儲けをたくらむ連中をフリークスたちが懲らしめる・・・というだけ。惨殺シーンもフリークス表現と同じ特殊メイクを使っているため、高画質も手伝ってちっとも恐ろしくありません。それでも怖がらせようとする演出の跡は見られますし、ラストの狂気は別の意味での恐ろしさを感じましたから、大一作当時とは変わってしまった監督のセンスや時代に空気から生まれた仕事としてはよくやった方でしょう。
2は監督がイヤイヤやった映画程度の認識しかされていませんが、まぁそう言った背景を考えればまだ許される存在でしょう。不可解なのは1991年に「バスケットケース3」がまたしても同じヘネンロッター監督の手によって作られたことです。連作した時点でもうやっつけではあってもイヤイヤではなかった、としか思えません。
バスケットケース3は、第一作のヒューマンドラマの影も形もなく、第二作には残っていたホラー要素も消え失せています。なにせ冒頭ベリアルのベッドシーンから始まるからです。確かに第一作でベリアルはドウェインの恋人を殺し、その死体の上で必死で腰を動かすレイプシーンがありまして、それは今でも語り草です。第二作はその部分をクローズアップさせ、ベリアルとほぼ同じ姿をしたイヴという女フリークス(結構美人)といい仲になり、濃厚な情事シーンが展開してはいました。3の冒頭はその流用に過ぎないのですが、そこから始めなくてもいいじゃないですか! しかもそのイヴ、そのままベリアルの子を妊娠して産み落とすのですが、その数なんと12人。しかも全員ベリアルそっくりの異形・・・あれ? ベリアルって奇形だけど人間だったはず。ならばその子供は人間の範囲内で出産されなければなりませんが、どうみてもイヴの出産シーンは人間のソレじゃありません。導き出される結論は一つ、イヴは人間じゃありません。ベリアルと似た外見なのはもともとああいう生物に過ぎなかったのです。イヴはフリークスというよりクリーチャー、人工的な改造生物でしょう。ひょっとしたら2以降登場しているベリアル以外のフリークスは多くが人工クリーチャーなのかも知れません。その方が納得できますが。序盤、イブの出産のために前作から引き続き登場のルースはフリークス全員を引き連れ、知り合いの医師のもとへ行きます。この人物は医者嫌いのベリアルによってやられ、殺されたのかさっさと退場してしまうのでいろいろ謎ですが、ひょっとしたらフリークスを生み出していた張本人なのかも。
フリークスたちを化け物の集団とみなした地元警察はショットガン片手に家に侵入してイヴを殺し、ベリアルの子供を持って行ってしまいます。怒ったベリアルは警察署に侵入(手段はバスケットケースに入って玄関に置いて行ってもらうだけ)。突如暴れだしたベリアルによって警察署は混乱、警官が次々と死亡しただけでなく、保安官の娘(サドで変人)も巻き込まれて死に、ベリアルの子供の一人もその際押しつぶされてしまいます。自分の娘が死んだことに怒った保安官はベリアルの子供を人質にしてベリアルを呼び出し、殺そうとしますが、その前に現れたベリアルは金属製で二足歩行するロボットに乗っていたのでした・・・。もう露骨なまでの「エイリアン2」のパロディ。エイリアン2のラストバトルは母親同士の一騎打ちと言われましたが、バスケットケース3は父親同士の一騎打ちとしてパクっています。まぁ説得力が全然ありませんが。ちなみにドウェインは前作で頭がおかしくなった影響も残っていてまともではなく、もういてもいなくてもどうでもいい存在にまで成り下がっています。
こうした後続作品のブチ壊れっぷりのせいか、バスケットケース第一作すらまともに評価されないB級以下の扱いになってしまった感はあります。第一作を語って2と3を語らないわけにはいきませんからね。あえてなんでこんな3を作ったか、という疑問をヘネンロッター監督になったつもりで考えてみましょう。多分監督は2を撮ったあと「昔みたいな作品を撮れ」と怒られたことでしょう。3はアレはアレで原点回帰のつもりだったのかも知れません。しょせん第一作は「エレファントマン」のフォロワーであり、その時代の空気が必要でした。今同じことはできない。ならば「何かの作品の空気に頼る」という意味での原点回帰を狙ったのがバスケットケース3なのではないかと。ちょうどエイリアン3が公開直前なこともあり、おそらく話題になっていたでしょうからこっちをいただいちゃえ、3は間に合わないから2を元にしよう・・・。こんなところではないでしょうか。そう考えればごった煮のように中途半端にいろいろやった2よりバカ映画としては一本線が通っているように見えなくもない作品になっているようにも思えます。ヒット映画に便乗してB級映画を作るというのはちっとも珍しくない話ですし、おかげでわたしが愛するバカ映画のネタがいつまでたっても尽きない幸せな時間を過ごさせてくれるのですから。まぁですが3はプロデューサーや制作会社のお偉いさんの怒りを多分買ったんでしょう、それ以降ヘネンロッター監督が映画監督の仕事をした形跡はありませんから。
今回バスケットケース3部作が全部単品BD化されましたが、特典映像付きで作品解説文もあるパッケージデザインなのは第一作だけ。2と3は手抜きもいいところで同じデザのインでちょっと文章が違うだけ。2なのに3の写真が使われているなど酷いやっつけ仕事です。なのでわざわざ"※本Blu-rayは「バスケットケース2」になります。""3」になります。"と断っているくらいです。なのに値段は全部同じ。3だけを単独で買う人間なんてこの世にいない(断言)んですから、値段下げてくれてもいいのになぁ。
主人公のベネガルとドウエインは結合双生児。母親は彼らを生むと同時に死亡。幼いころは父親によって隔離されて生活していましたが、やがて父親は二人を手術で切り離させることを決意するのですが、生かすのは弟のドゥエインだけ。なぜならベリアルは人間の姿をとどめておらず、肉の塊の真ん中に顔があり、両側から腕が映えた状態で弟の脇腹にくっついている、という醜い姿だったからです。嫌がる二人を強引に麻酔にかけ、金さえもらば非合法な手術でもやる医師たちによる切り離し手術。ドウエインは傷跡は残ったものの術後の手当てが行われましたが、ベリアルはなんと生きたままゴミ捨て場に捨てられていたのでした。双子の間にあったテレパシーで弟に助けられたベリアルは、復讐のためまず父親を殺害すると、弟の持つバスケットケースに身を隠し、手術をした医師を一人一人探し、殺害していくのでした。
バスケットケースというとサンドイッチでも入れてピクニックに持っていくやつを連想しますが、ベリアルはもっと大きいのでドウェインも抱えて歩くような、行李に近い箱です。猛獣のような勢いでそこから飛び出してくるベリアルは迫力があり、そのあとの血まみれ残酷描写を引き立たせます。ベリアルというキャラクターはよく言えば手塚治虫氏のマンガ「ブラックジャック」のピノコみたいな存在です。ピノコはブラックジャックによって体を与えられ、救われましたが、ベリアルは誰も救いの手を伸べませんでした。日本人が見て特に哀れみと哀しみを感じるのはそうした面もあるかと思います。作品が作られた1982年ころはこうした結合双生児や奇形をさらすような作品はそろそろ憚れる空気があったかと思いますが、「バスケットケース」でそれができたのはおそらく1980年に公開されてヒットした映画「エレファントマン」の余韻のおかげで奇形を哀しみととらえる空気が存在したためだと思います。便乗映画と言われれば、そうだ、と答えるしかありませんが、おそらくいくつも作られた似たような映画の中で名を残したのはそれだけ優れていた部分があった、ということでしょう。

ソフトの映像は公開時とは異なる4対3の画角になっています。これは先も書きましたように16ミリのフィルムを使い、かつ上映の際に上下をトリミングして1対1.85の画角にしたために、現在そのままHDリマスターにしてもあまりに画質が悪くなって視聴に耐えなくなるとのこと。それを少しでもマシにするためにオリジナルの4対3に戻したとのことです。それでも高画質とは言えませんが、そこが味ですから仕方ないところです。そのくらいの画質なら別にBDでなくDVDでも十分だと思うところ。実際わたしは今でも平気でDVDを買いますし、今回のバスケットケースソフト化も迷ったのですが結局BDにしました。それはバスケットケースには2と3が存在し、かつその2本に関しては今回DVDが発売されずBDのみのため、それと合わせるためです。棚に並べたときにシリーズでデザインが違うのは美しくないもので。
この時点で一部のマニアの心に残り続けた「バスケットケース」。なぜかその余韻が潰される日が訪れてしまいました。「バスケットケース2」が作られ、公開されたからです。「バスケットケース2」は前作公開から8年もたった1990年に製作された映画です。一応第一作は当たってそのあとの企画をいろいろ立て続けた同作の監督、フランク・ヘネンロッター監督ですが、どうもイロモノ路線に走ったらしく、悉くボツを喰らい続けたようです。まぁイロモノではあってもヒューマンドラマの面が評価された「バスケットケース」の監督が「ミュータントゴキブリ」とかの企画を持ってきたら怒るよなぁ。それでも「ブレインダメージ」を作り、さらに「フランケンフッカー」の企画が受け付けてもらえます。ただし、条件として「バスケットケース2も作ること」が突き付けられたとのことです。ヘネンロッター監督は続編を作ることはためらったようですが、その代わりに自分の作りたい映画も作ることができるなら、とバスケットケース2を作りましたが。
・・・なんか、いろいろと壊れてました。
まず、前作で死んだはずの双生児が生きていました。キングコング2かよ! と盛大にツッコミを入れましたが、考えてみたら前作のラストシーン、ホテルから落ちて血まみれになって倒れた二人の周りを野次馬が取り囲む病者はキングコングに似ているといえば似ている。まぁそれはよしとしましょう。二人は病院に運ばれますが、ベリアルの外見からは別に見た感じケガ等の様子はありません。むしろ暴れることを警戒してか、鎖か何かでつながれているくらいです。パッと見すると左手の位置と向きが前作と少し異なり、顔がちょっとカッコよくなり、色が茶色くなってます。どう見ても別人・・・いやいやきっと落ちたショックで骨の位置に変化があったんでしょう。むしろカットごとに大きく印象の異なる前作(まぁ複数のパペットを使い、かつデザインの統一が取れていなかったせいなのですが)より統一性という点では優れていますし。一方弟のドウェインはベリアルとの喧嘩の記事もあってか全身包帯男。それが後に取れると・・・。月日の流れは残酷なもので、前作の同じ役者のケヴィン・ヴァン・ヘンデリックが演じているのですが、数年の間にすっかり恰幅がよくなってしまっていました。さらに今回は35mmの映画用フィルムで撮影された高画質のHDマスターのため、あごに残る青々としたヒゲの剃り跡が丸わかりになってしまっています。前作では隠されて幼少期を不健康に過ごしたイメージにふさわしい線の細いあどけない少年顔だったのに・・・。まぁそこは目をつぶりましょう。
前作で起こした二人の事件はマスコミによって報道され、悪い意味でも一躍時の人となっていました。異形の外見で連続殺人事件を起こしていましたからね。ドウェインはベリアルを連れて病院を逃げ出しますが、そこに「ドクター・フリークス」の異名をとる女、ルースが現れます。ベリアルのような奇形児を引き取って同居している彼女に誘われるままその家に行ってみるとそこには奇形のものたちが・・・というよりフリークスが大勢住んでいたのでした。「奇形」も「フリークス」も意味は同じですが、このころのフリークスとはそれ以前の見世物小屋芸人のようなリアルなものとは違う、進歩した特殊メイク技術を使って悪乗りした造形のキャラクターを大暴れさせるような映像が、映画やミュージックビデオの賑やかし要因としてもてはやされていた時期なのです。「スター・ウォーズ」シリーズにある、雑多な宇宙人たちが集う酒場のシーンを連想してもらえればイメージは近いかと思います。本作に出てくるフリークスもネズミやカエルの顔を模したもの、歯がハーモニカ状のものなどベリアルのような奇形とは一線を画すリアリティのないものたちばかり。演出は淡々としていた前作とは打って変わって大きな演技になってしまっています。ストーリーも有名になったベリアルを利用して金儲けをたくらむ連中をフリークスたちが懲らしめる・・・というだけ。惨殺シーンもフリークス表現と同じ特殊メイクを使っているため、高画質も手伝ってちっとも恐ろしくありません。それでも怖がらせようとする演出の跡は見られますし、ラストの狂気は別の意味での恐ろしさを感じましたから、大一作当時とは変わってしまった監督のセンスや時代に空気から生まれた仕事としてはよくやった方でしょう。
2は監督がイヤイヤやった映画程度の認識しかされていませんが、まぁそう言った背景を考えればまだ許される存在でしょう。不可解なのは1991年に「バスケットケース3」がまたしても同じヘネンロッター監督の手によって作られたことです。連作した時点でもうやっつけではあってもイヤイヤではなかった、としか思えません。
バスケットケース3は、第一作のヒューマンドラマの影も形もなく、第二作には残っていたホラー要素も消え失せています。なにせ冒頭ベリアルのベッドシーンから始まるからです。確かに第一作でベリアルはドウェインの恋人を殺し、その死体の上で必死で腰を動かすレイプシーンがありまして、それは今でも語り草です。第二作はその部分をクローズアップさせ、ベリアルとほぼ同じ姿をしたイヴという女フリークス(結構美人)といい仲になり、濃厚な情事シーンが展開してはいました。3の冒頭はその流用に過ぎないのですが、そこから始めなくてもいいじゃないですか! しかもそのイヴ、そのままベリアルの子を妊娠して産み落とすのですが、その数なんと12人。しかも全員ベリアルそっくりの異形・・・あれ? ベリアルって奇形だけど人間だったはず。ならばその子供は人間の範囲内で出産されなければなりませんが、どうみてもイヴの出産シーンは人間のソレじゃありません。導き出される結論は一つ、イヴは人間じゃありません。ベリアルと似た外見なのはもともとああいう生物に過ぎなかったのです。イヴはフリークスというよりクリーチャー、人工的な改造生物でしょう。ひょっとしたら2以降登場しているベリアル以外のフリークスは多くが人工クリーチャーなのかも知れません。その方が納得できますが。序盤、イブの出産のために前作から引き続き登場のルースはフリークス全員を引き連れ、知り合いの医師のもとへ行きます。この人物は医者嫌いのベリアルによってやられ、殺されたのかさっさと退場してしまうのでいろいろ謎ですが、ひょっとしたらフリークスを生み出していた張本人なのかも。
フリークスたちを化け物の集団とみなした地元警察はショットガン片手に家に侵入してイヴを殺し、ベリアルの子供を持って行ってしまいます。怒ったベリアルは警察署に侵入(手段はバスケットケースに入って玄関に置いて行ってもらうだけ)。突如暴れだしたベリアルによって警察署は混乱、警官が次々と死亡しただけでなく、保安官の娘(サドで変人)も巻き込まれて死に、ベリアルの子供の一人もその際押しつぶされてしまいます。自分の娘が死んだことに怒った保安官はベリアルの子供を人質にしてベリアルを呼び出し、殺そうとしますが、その前に現れたベリアルは金属製で二足歩行するロボットに乗っていたのでした・・・。もう露骨なまでの「エイリアン2」のパロディ。エイリアン2のラストバトルは母親同士の一騎打ちと言われましたが、バスケットケース3は父親同士の一騎打ちとしてパクっています。まぁ説得力が全然ありませんが。ちなみにドウェインは前作で頭がおかしくなった影響も残っていてまともではなく、もういてもいなくてもどうでもいい存在にまで成り下がっています。
こうした後続作品のブチ壊れっぷりのせいか、バスケットケース第一作すらまともに評価されないB級以下の扱いになってしまった感はあります。第一作を語って2と3を語らないわけにはいきませんからね。あえてなんでこんな3を作ったか、という疑問をヘネンロッター監督になったつもりで考えてみましょう。多分監督は2を撮ったあと「昔みたいな作品を撮れ」と怒られたことでしょう。3はアレはアレで原点回帰のつもりだったのかも知れません。しょせん第一作は「エレファントマン」のフォロワーであり、その時代の空気が必要でした。今同じことはできない。ならば「何かの作品の空気に頼る」という意味での原点回帰を狙ったのがバスケットケース3なのではないかと。ちょうどエイリアン3が公開直前なこともあり、おそらく話題になっていたでしょうからこっちをいただいちゃえ、3は間に合わないから2を元にしよう・・・。こんなところではないでしょうか。そう考えればごった煮のように中途半端にいろいろやった2よりバカ映画としては一本線が通っているように見えなくもない作品になっているようにも思えます。ヒット映画に便乗してB級映画を作るというのはちっとも珍しくない話ですし、おかげでわたしが愛するバカ映画のネタがいつまでたっても尽きない幸せな時間を過ごさせてくれるのですから。まぁですが3はプロデューサーや制作会社のお偉いさんの怒りを多分買ったんでしょう、それ以降ヘネンロッター監督が映画監督の仕事をした形跡はありませんから。
今回バスケットケース3部作が全部単品BD化されましたが、特典映像付きで作品解説文もあるパッケージデザインなのは第一作だけ。2と3は手抜きもいいところで同じデザのインでちょっと文章が違うだけ。2なのに3の写真が使われているなど酷いやっつけ仕事です。なのでわざわざ"※本Blu-rayは「バスケットケース2」になります。""3」になります。"と断っているくらいです。なのに値段は全部同じ。3だけを単独で買う人間なんてこの世にいない(断言)んですから、値段下げてくれてもいいのになぁ。